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平成28年度 定時社員総会およびシンポジウム・「平成28年(2016年) 熊本地震」緊急報告会

日時

平成28年6月10日(金)
10:30〜12:00 定時社員総会
12:30〜13:00 「平成28年(2016年) 熊本地震」緊急報告会(ポスターコアタイム)
13:00〜16:30 シンポジウム
16:40〜18:00 「平成28年(2016年) 熊本地震」緊急報告会(講演)
18:10〜    意見交換会

会場

柏キャンパスまでのアクセス

東京大学柏キャンパス 新領域環境棟FSホール
千葉県柏市柏の葉5-1-5
柏キャンパスへのアクセス(東京大学ホームページ)
つくばエクスプレス柏の葉キャンパス駅から東武バス(西柏04または西柏03)東大前または東大西停留所下車
※会場には駐車場がありませんので,公共交通期間をご利用ください

定時社員総会

総会の構成員は役員および代議員ですが,当学会員であれば総会を傍聴することができます

シンポジウム

テーマ:「地下水の見方・捉え方」

参加費(予稿集代を含む)

正会員2,000円,学生会員1,000円
「平成28年(2016年) 熊本地震」緊急報告会の参加費は無料です

意見交換会

会 場:東京大学柏キャンパス内「プラザ憩い」
参加費:5000円

CPDH

4時間(シンポジウムを聴講の場合)
CPDの登録にはジオ・スクーリングネット(https://www.geo-schooling.jp)をご活用ください

プログラム

1.シンポジウム開催の主旨

地下水は我々にとって欠かすことのできない資源であるが,過剰な地下水揚水は地盤沈下や酸欠空気等の問題を引き起こしてきた.また地下水は,地下空間の開発・利用や自然・人為由来汚染物質の移行,地震発生時の地盤液状化,さらに近年に増加している豪雨による地すべりや斜面崩壊にも,大きな影響を与えている.このように,地下水は応用地質学の諸分野と密接にかかわっており,そこに携わる技術者・研究者にとって,地質と地下水挙動の関係について理解を深めることの重要性が一段と高まっている.しかし,これらの諸現象・諸問題は様々な時間・空間スケールで生じる非定常問題であり,状態の変化を適切に捉えて,現象・問題のメカニズムや地下水の果たしている役割を正しく理解することは容易ではない.
本シンポジウムでは,「地下水の見方・捉え方」と題して,これらの諸現象・諸問題における非定常系を理解するための様々な観測や解析の手法や技術,それらの自然災害への適用等について,最近の事例や新しい知見を基本的な概念を踏まえて紹介するとともに,それらの課題について議論する.

2.プログラム

シンポジウム「地下水の見方・捉え方」
13:00-13:05 開会挨拶
13:05-13:50 基調講演「非定常な地下水挙動と応用地質学」
   東京大学大学院 新領域創成科学研究科 梔i朋祥
13:50-14:20 「地下水開発による都市域地下水環境の長期変化」
   国立研究開発法人 産業技術総合研究所 宮越昭暢
14:20-14:50 「二酸化炭素地中貯留における地下水の物理・化学現象」
   大成建設株式会社 技術センター 山本 肇
14:50-15:00 休憩
15:00-15:30 「風化・変質にかかわる地盤・地下水の化学的変化」
   一般財団法人 電力中央研究所 地球工学研究所 大山隆弘
15:30-16:00 「非定常水文過程とマスムーブメント: 観測とモデリングにもとづく新しい斜面減災の方法論構築を目指して」
   京都大学防災研究所 松四雄騎
16:00-16:30 総合討論
「平成28年(2016年) 熊本地震」緊急報告会
16:40-17:00 「2016年熊本地震被害と地形・地質概観」
   福岡教育大学 黒木貴一
17:00-17:20 「平成28年熊本地震による地表地震断層」
   東北大学災害科学国際研究所 遠田晋次
17:20-17:40 「2016年熊本地震による阿蘇カルデラ周辺における斜面変動」
   京都大学防災研究所 松四雄騎
17:40-18:00 「2016年熊本地震による道路のり面斜面の主な被害」
   土木研究所 佐々木靖人

「平成28年(2016年) 熊本地震」緊急報告会 展示ポスター

2016年熊本地震における熊本市内の地下水位変動の概要

鈴木弘明(日本工営)・林 武司(秋田大学)・日本応用地質学会地下水研究部会

2016年4月熊本地震による地表変状−多時期のLiDAR DEMデータ解析による地表変位抽出およびSentinel-1衛星干渉SAR解析による建物被害分布

向山 栄・高見智之・本田謙一・浅田典親・佐藤 匠(国際航業株式会社)

大地の成り立ちから熊本地震災害を考えるー今後のアウトリーチ活動に向けてー

長谷川修一・山中 稔・野々村敦子(香川大学工学部)

平成28年(2016年)熊本地震における上空からの緊急調査

高山陶子(アジア航測株式会社)

熊本地震に伴う阿蘇山中央火口丘群で発生した斜面変動について

長谷中利昭(熊本大学)・田島靖久(日本工営)・鳥井真之(熊本大学)

平成28年(2016年)熊本地震で出現した地表地震断層

小俣雅志・谷口 薫・郡谷順英・頓田修一朗・榊原庸貴(株式会社パスコ)

平成28年(2016年)熊本地震で発生した地盤災害判読

森 良樹ほか(株式会社パスコ)

熊本地震災害調査概要(その1)立野周辺の斜面災害について

災害地質部会熊本災害調査団

熊本地震災害調査概要(その2)京都大学火山研究所周辺の斜面災害について

災害地質部会熊本災害調査団

熊本地震災害調査概要(その3)山王などその他の斜面災害について

災害地質部会熊本災害調査団

熊本地震災害調査概要(その4)阿蘇カルデラ内に生じた陥没性断裂の周辺に生じた変状について

災害地質部会・九州支部 熊本災害調査団

九州横断ルートと自然災害に関する応用地形学的研究 肥後との比較

日本応用地質学会応用地形学研究部会

「平成28年熊本地震」で発生した地表地震断層の分布と特徴(速報)

「平成28年熊本・大分地震」災害調査団(九州支部ワーキンググループ,地震断層調査班※)
※矢野健二((株)ジオテック技術士事務所),花村 修((株)九州地質コンサルタン ト),矢田 純((株)カミナガ,元浦哲郎,津田圭祐(日本地研(株)),池見洋明(九州大学),牧野隆吾(日鉄鉱コンサルタント(株)),山田好之助,永田和久((株)藤永地建),品川俊介, 松尾達也(土木研究所),長谷川清史((株)建設技術研究所),清田泰行((株)アサノ大成基礎エンジニアリング)

「平成 28 年(2016 年)熊本地震」で発生した斜面崩壊の分布と特徴(速報)

「平成 28 年熊本・大分地震」災害調査団(九州支部ワーキンググループ,斜面崩壊班※)
※山本茂雄(中央開発(株)),池見洋明(九州大学),撰田克哉(日本地研(株)),奥野 充(福岡大学),徳田充樹(新地研工業(株),碓井敏彦(新日本グラウト工業(株)),藤野 晃(第一復建(株)),矢野寛幸((株)アサノ大成基礎エンジニアリング),島内 健(日本地研(株))

実施報告

実施概要

平成28年度シンポジウムを開催いたしました.約200名の多数のご参加をいただきありがとうございます.各講演の概要は以下のとおりです.詳細は特別講演およびシンポジウム予稿集としてまとめられています.是非ご一読いただけたら幸いです.予稿集の購入に際しては学会事務局までお問い合わせ下さい.

基調講演

「非定常な地下水挙動と応用地質学」

東京大学大学院 新領域創成科学研究科 梔i朋祥

 基調講演では,地圏環境の変化の主要因の一つと考えられる地下水の非定常的な挙動について,1.沿岸部における長期的な地下水挙動,2.都市の発展と地下水挙動の変遷という2つの視点で数値解析を基にした,地下水の時空間変化検討についてご講演いただいた.
 沿岸部の長期的な地下水挙動については,10万年程度の時間スケールで発生する氷河性の改水準変動が難透水性泥層を堆積させたり,その後のデルタの発達が砂質地盤を発達させたりするため,地下水の挙動を考えるに当たっては,関連する地質現象の理解が重要となり,地質学と地下水学の統合 が,強力なアプローチになりうることが示された.
 地下水の挙動が自然現象と人間活動のどちらの影響も受け動的に変化するものであり,その時空間的変遷を適切に理解し,地圏空間の保全と利用を目指すことが求められていること.そのためにも,地下水学と地質学との融合に基づく研究を行う応用地質学分野の研究者・技術者の活躍に期待することが強調された.

シンポジウム講演

「地下水開発による都市域地下水環境の長期変化」

国立研究開発法人 産業技術総合研究所 宮越昭暢

 本講演では,宮越氏が地下水環境変化の評価指標として長年にわたって着目されてきた地下温度について,首都圏における,地下温度プロファイルの定期的な測定や高精度モ ニタリングの結果を基に,地下水開発による地下水流動の変遷や,ヒートアイランド現象等の都市排熱が地下温度分布に影響を与え,現在も変化させ続けていることなどを,関東平野の北部と中央部〜南部の事例を示して紹介された.
 また,蓄積されている長期の観測データが,地下水開発の影響だけでなく,地下温度等の指標と組み合わせて再検討することにより,複雑な都市化の影響の抽出や非定常な変化を示す都市域の地下水環境を保全・管理・活用するために有効であり,このような地下水環境のモニタリングを継続することが極めて重要であると提言された.

「二酸化炭素地中貯留における地下水の物理・化学現象」

大成建設株式会社 技術センター 山本 肇

 本講演では,初めに二酸化炭素地中貯留(CCS)の概要とCO2のトラップメカニズムについて研究事例を交えて紹介された.CCSは日本では実証試験段階だが,国外ではノルウェーのスライプナーの様に,既に100万t/年のCCSを10年以上継続しているサイトもある.そこでは物理探査の結果,層位・構造トラップによりCO2が地下に貯留されていると考えられていることが紹介された.
 また,山本氏が実施したCO2溶解水の対流混合と,CCSによる広域地下水流動系への影響について,地球シミュレーターを用いた研究成果が示された.前者については,貯留された超臨界状態のCO2は地層水よりも低密度で漏洩側に移行するが,長期的にはCO2は地下水に溶解し周囲よりも高密度になり対流混合が起こる.この現象はCO2のトラップ効果を促進する方向に作用することが紹介された.後者については,東京湾でのCCSを想定したケーススタディーとして,CO2圧入井の周囲10km程度の範囲で圧力が上昇すること予測されることが紹介された.

「風化・変質にかかわる地盤・地下水の化学的変化」

一般財団法人 電力中央研究所 地球工学研究所 大山隆弘

 本講演では,地表付近での岩盤の化学的風化作用として,地下坑道での研究事例が紹介された.岩盤と地下水との反応としては,地表からの風化の様に地下水の流動が下向きの場合と,地下坑道壁面で起きるような地下水の流動が上向きの現象があることが紹介された.さらに,これらの風化現象のメカニズムと風化の進行速度を推定する方法について,詳細な研究成果が紹介された.
 また,堆積岩の間隙水評価法として圧縮抽水法が紹介された.圧縮注水法は,ボーリング孔内での採水が困難な難透水性の岩盤を対象に,コア試料に段階的に圧力をかけながら間隙水を抽出する技術であり,難透水層岩盤が分布する地下の地質環境を評価可能な技術として期待される.本技術を適用する場合,粘土鉱物やパミスの量により圧力上昇に伴う水質変化が生じるなど,岩質を考慮した評価の必要性が示された.

「非定常水文過程とマスムーブメント: 観測とモデリングにもとづく新しい斜面減災の方法論構築を目指して」

京都大学防災研究所 松四雄騎

斜面崩壊予測の課題は“場所”,“規模”,“時刻” の3要素がある.本講演では,この3要素を明らかにするための従来の研究事例と,松四氏の最新の研究成果が紹介された.表層崩壊の予測は,土砂の生成速度を明らかにすることで“場所”の予測を,飽和・不飽和の浸透流解析に基づく検討は“時刻”の予測を可能とすることが期待される.2010年の庄原での災害では局所的に猛烈な雨が降り,そこで斜面崩壊が多発している.土層が初期的に湿潤状態であれば,水理拡散係数と透水係数を用いることで,降雨にともなう土層中の間隙水圧の変化を再現よく計算できることが紹介され,この手法を2010年の庄原の災害に適用することで実際の崩壊箇所とタイミングを合理的に説明できる事が紹介された.
 2011年紀伊災害での赤谷の崩壊では,崩壊前後の航空レーザー測量結果から,深層崩壊の“場所”の予測の可能性が示された.“時刻”については地震観測の結果から,降雨のピークに近いタイミングで崩壊しており,赤谷では付加体特有の速い水の応答があったと考えられる.地下水の移流よりも速やかな水圧伝播は比良山地西部での水文観測の事例からよく理解でき,ここでは断層を境に2段の湧水があり,降雨に伴う圧力の伝播に遅れてECが変化することが紹介された.
 最後に,減災の実現に向けては,準リアルタイムでの斜面の不安定化を表現可能な,4次元のハザードマッピングが必要となることが述べられた.

総合討論

コーディネーター 日本大学 竹内真司

 総合討論では,まず始めに各講演に対する質疑応答を中心に議論が進められた.そして,コーディネーターの竹内先生からの問題提起「学術的な技術を非専門家の人へどう展開するか(今後の展望)」に対して,各講演者から次のような提言がなされた.
 都市域の地下水環境では,観測井を活用したモニタリングの継続やデータベースの構築が重要で,学会の枠組みを利用した連携体制の構築が有益である(宮越氏).
 CCS技術では,現場に応じ,個々の問題に対して地域性を考慮し対応していくことが重要である(山本氏).
 風化作用に関して,重金属類の溶出特性等の問題への応用が求められる.岩石中の間隙水の取り扱いでは,岩石内部での間隙水の存在形態,不均質さの考慮が必要である(大山氏).
 斜面災害に関しては,地域性に応じて問題解決型のタスクを意識して取り組んでいくことが必要である(松四氏).

(文責:事業企画委員会 田中,宮原,森山)