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平成29年度 定時社員総会およびシンポジウム

日時

平成29年6月9日(金)
11:00〜12:00 定時社員総会
12:30〜13:00 シンポジウム(ポスター)
13:00〜14:00 文部科学大臣表彰受賞記念講演
14:00〜17:50 シンポジウム(講演)
18:00〜    意見交換会

会場

柏キャンパスまでのアクセス

東京大学柏キャンパス 新領域環境棟FSホール
千葉県柏市柏の葉5-1-5
柏キャンパスへのアクセス(東京大学ホームページ)
つくばエクスプレス柏の葉キャンパス駅から東武バス(西柏04または西柏03)東大前または東大西停留所下車
※会場には駐車場がありませんので,公共交通期間をご利用ください

定時社員総会

総会の構成員は役員および代議員ですが,当学会員であれば総会を傍聴することができます

平成29年度文部科学大臣表彰受賞記念講演

講演:「深層崩壊の準備過程と発生場所予測に関する研究」
    京都大学防災研究所 千木良 雅弘 教授

シンポジウム

テーマ:「アウトリーチ de GO 〜社会貢献が切り拓く応用地質学の未来〜」

参加費(予稿集代を含む)

正会員3,000円,学生会員2,000円(予定)

意見交換会

会 場:東京大学柏キャンパス内「プラザ憩い」
参加費:5000円(予定)

CPDH

3.5時間(シンポジウムを聴講の場合)

プログラム

1.シンポジウム開催の主旨

アウトリーチ(Outreach)とは手を差し伸べる意味であり,地域社会への奉仕や普及に関する活動の観点で最近では多用されている.特に科学分野のアウトリーチとしては専門分野に対する研究紹介や専門分野以外の一般に向けた普及講演などがあり,近年では研究者からの一方的発信ではなく一般社会などからのフィードバックが必須となってきている.
翻って,日本応用地質学会では2012年に発信したアクションプランにおいて,U.学術・技術の進歩への貢献に関して“応用地質技術者の育成”やV.社会への貢献に関して“一般市民への啓発・普及活動”を掲げてきており,その成果が着実に結実しつつある.
このような機会を捉えて,アウトリーチに関する委員会,研究部会,支部の活動状況や今後の方向性を報告してもらい,これを踏まえて今後の学会としての活動方針を模索する.シンポジウムでの過程を経て,応用地質技術者への更なる育成や,一般社会への貢献を活発化させることにより,学会員の増加や一般社会からの認知度さらには国際的な認知度を上げたい.

2.プログラム
講演

シンポジウム「アウトリーチ de GO 〜社会貢献が切り拓く応用地質学の未来〜」
14:05〜14:10 趣旨説明
14:10〜15:00 基調講演「日本応用地質学会がめざすアウトリーチ活動」
   一般社団法人日本応用地質学会前会長・アウトリーチ担当顧問 長谷川修一(香川大学)
15:00〜15:20 「応用地質技術者の技術力向上に向けた応用地質学教育普及委員会の取り組み」
   一般社団法人日本応用地質学会 応用地質学教育普及委員会 情野 隆(日本工営株式会社)
15:20〜15:40 「市民フォーラムによるアウトリーチ」
   一般社団法人日本応用地質学会 環境地質研究部会 舩山 淳(パシフィックコンサルタンツ株式会社)
15:40〜15:50 休憩
15:50〜16:10 「防災教育の実践例から考えるアウトリーチ活動 ―非専門者に対する災害地質教育の体験・問題点―」
   一般社団法人日本応用地質学会 災害地質研究部会 松澤 真(パシフィックコンサルタンツ株式会社)・戸邉勇人(鹿島建設技術研究所)
16:10〜16:30 「土木地質に関するアウトリーチの目的とコンテンツの検討」
   一般社団法人日本応用地質学会 土木地質研究部会 松尾達也(土木研究所)
16:30〜16:50 「H26広島豪雨災害に係る支部アウトリーチ活動」
   一般社団法人日本応用地質学会 中国四国支部 曽我部 淳(中電技術コンサルタント株式会社)
16:50〜17:00 休憩
17:00〜17:50 パネルディスカッション(コーディネーター 長谷川修一顧問)

ポスターセッション

(1)土木地質図 de GO 〜新たな展開に向けて〜
       一般社団法人日本応用地質学会 北海道支部

(2)アクションプラン2012への取り組み 
       一般社団法人日本応用地質学会 東北支部

(3)北陸支部におけるアウトリーチ活動と今後の展望
       一般社団法人日本応用地質学会 北陸支部

(4)中部支部のアウトリーチ活動
       一般社団法人日本応用地質学会 中部支部

(5)応用地質学会関西支部における取り組み
       一般社団法人日本応用地質学会 関西支部

(6)中国四国支部におけるアウトリーチ活動の紹介
       一般社団法人日本応用地質学会 中国四国支部 加藤弘徳((株)荒谷建設コンサルタント)

(7)九州支部の災害調査ワーキンググループ活動とアウトリーチ
       一般社団法人日本応用地質学会 九州支部,九州応用地質学会

(8)応用地質学的巡検マップ「大人のための修学旅行」:知的なふるさと再発見「秋田県横手盆地」
       一般社団法人日本応用地質学会 応用地形学研究部会

(9)応用地質学的巡検マップ「大人のための修学旅行」:浅間山麓と千曲川中流域の地形と歴史を鳥瞰する旅
       一般社団法人日本応用地質学会 応用地形学研究部会

(10)応用地質学的巡検マップ「大人のための修学旅行」:吉野川沿いの「人・ものの移動」を学ぶ旅
       一般社団法人日本応用地質学会 応用地形学研究部会

(11)市民フォーラムによる応用地質学のアウトリーチ
       一般社団法人日本応用地質学会 環境地質研究部会 舩山 淳(パシフィックコンサルタンツ株式会社)

(12)土木地質に関連したアウトリーチと普及のための検討(仮題)
       一般社団法人日本応用地質学会 土木地質研究部会

(13)日本地質学会との協働事業「地質の日:街中ジオ散歩 in Tokyo 」の紹介
       一般社団法人日本応用地質学会 事業企画委員会

(14)讃岐ジオパーク構想推進のためのアウトリーチ活動 
       長谷川修一(香川大学)

実施報告

実施概要

平成29年度シンポジウムを開催いたしました.当日は137名のご参加をいただきありがとうございます.各講演の概要は以下のとおりです.詳細は特別講演およびシンポジウム予稿集としてまとめられています.是非ご一読いただけたら幸いです.予稿集の購入に際しては学会事務局までお問い合わせ下さい.

基調講演

「日本応用地質学会がめざすアウトリーチ活動」

日本応用地質学会前会長・アウトリーチ担当顧問 長谷川修一(香川大学)

 本講演では,業界や日本を取り巻く状況について,各種統計データや長谷川先生の体験を踏まえた報告があり,アウトリーチ活動を進める意義,日本応用地質学会が生き残るための取組みなどについてお話頂いた.
 現況の分析では,地質調査業界や大学の置かれた状況は厳しく,日本の中枢都市をはじめ国内の災害リスクも高い.これに対し,日本の国土と社会のグランドデザインとリスクマネジメントについて考え,「技術と芸術の融合」や「経験の工学から賢者の工学」というキーワードで,大地の成立ちから強みと弱みを考え,強みを活かし,弱みを逆手にとって強みに変えていく必要があるとした.
 次に,アウトリーチに関する他機関の取組事例を紹介し,理解者,支援者などを増やす広報的側面とアウトリーチが必要な人たちへ出向いて支援し,その意向を反映させるという2つの側面があることを指摘した.
 続いて,日本応用地質学会が生き残るための取組みとして,会員にとって魅力ある学会活動・サービス,地質技術・研究者が社会から高く評価されることなどが必要であり,特に,女性が魅力を感じる新規分野の開拓が重要であるとした.また,「危機をチャンスに」として,アウトリーチが学会・支部の社会的評価を高め,後継者の発掘に不可欠であり,真にローカルに貢献できれば世界に通用するというメッセージを頂いた.
 最後に,日本応用地質学会で立ち上げるアウトリーチ委員会の趣旨や構成,今後の活動予定などについて説明し講演を締めた.

シンポジウム講演

「応用地質技術者の技術力向上に向けた応用地質学教育普及委員会の取り組み」

日本応用地質学会 応用地質学教育普及委員会 情野 隆(日本工営株式会社)

 本講演では,応用地質学教育普及委員会におけるアウトリーチ活動として,応用地質技術入門講座の活動,技術者マッピングの検討について報告があった.
 応用地質技術入門講座については,平成27年度〜29年度にかけて実施された,3回の講座(第1回 八ッ場ダム,第2回 大谷石採掘場,第3回 小山ダム)について実施内容と受講者アンケートの集計結果について検討結果が示された.講座は「ボーリングコアの見方」を中心とし,参加者の8割が実務経験3年以下の参加があり,若手技術者の育成に寄与するものとなっている.
 技術者マッピングは技術者のキャリアパスの認識を支援する(応用地質技術者として必要な知識や技術者個人の目指すべき方向性を明確にする)ことを目的として検討されている.マップの様式では,個別技術のレベル分け(技術的な難易度)と技術者としての対応レベル(技術者の水準)がマッピングできるようになっており,非常にわかりやすい評価手法となっている.個人的には会社における技術者評価や教育訓練の指標として有用な手法になるのではないかと思われる.

「市民フォーラムによるアウトリーチ」

日本応用地質学会 環境地質研究部会 舩山 淳(パシフィックコンサルタンツ株式会社)

 本講演は,2013年から環境地質研究部会で企画・実施されてきた「市民フォーラム」の概要について報告された.
 「市民フォーラム」は横浜,福岡,岡山,大阪,仙台の5回開催され,「災害・防災」,「ジオメリット」を2柱として企画運営されている.各フォーラムで実施されたアンケートの結果からは,地域によって市民が心配しているジオリスクが違っていることが指摘された.また,岡山で実施された土砂災害の模型実験はわかりやすく,評判が良かったようである.市民フォーラムの課題としては,学会員の興味と市民へのわかりやすさのバランスが重要であり,市民の参加者が伸び悩んでいることを以下に解決するかが指摘された.また,ジオメリット・ジオブランドについては,地域の再生や地域資源の利活用に重要な側面になるのではないかと思われた.

「防災教育の実践例から考えるアウトリーチ活動 ―非専門者に対する災害地質教育の体験・問題点―」

日本応用地質学会 災害地質研究部会 松澤 真(パシフィックコンサルタンツ株式会社)・戸邉勇人(鹿島建設技術研究所)

 本講演では,まず松澤氏から2015〜2016年に実施された長野県辰野町における住民参加型の防災への取り組み「農山村を災害から守る会」の活動が紹介された.この活動は住民自らが崩壊危険箇所を抽出し防災マップを作成し,住民参加型の避難訓練を行なうというものである.本防災マップは危険箇所の抽出も地域の特性が考慮されており,避難ルートの選定なども地域の現状に即している事が期待され,減災に繋がることが期待される.アンケートの結果では,従来のハザードマップよりも役に立つなど,好意的な意見が多かったとの報告があった.

 次に戸邉氏から非専門者に対する災害地質学教育の課題と題し,群馬大学医学部において基礎看護学を履修する学生と防災士資格の教育カリキュラムを有する専門学校生を対象とした調査結果が報告された.報告では,まず福祉施設が土砂災害発生リスクの高い場所に立地する傾向があり,リスクの低減には発生リスクから適切な距離を保つ必要があること,そのため単独での避難が困難な被災者と接する機会が多いと思われる医療・介護者への災害地質学の普及の重要性が述べられた.調査の結果,高校・大学で地学教育を受けた者は非常に少ないこと,地形・地質,防災の必要性は理解しているとの結果が得られ,災害地質学教育の需要はあるが供給が不足していることが紹介された.今後の課題として,実際の介護従事者へのヒアリング,非専門者の必要とする情報のリサーチ等があげられた.

「土木地質に関するアウトリーチの目的とコンテンツの検討」

日本応用地質学会 土木地質研究部会 松尾達也(土木研究所)

本講演では,市民と土木技術者を対象とした,土木施設と地質を融合させた土木地質のアウトリーチについて,その目的とその実現のためのコンテンツの検討について紹介された.市民向けのコンテンツとしては,近年関心が高まっているジオパークや,市民向けに地形,地質,災害等について解説した啓発本,ジオ鉄や地学を題材とした飲料やお菓子等,土木遺産,ダムカードなどの土木施設を対象とした既往のコンテンツとそれらを活用したアウトリーチ等が紹介された.さらに研究部会が企画し試作した,津軽ダムの“ダムカード”ならぬ“ダム基礎カード”と“ダム基礎シグソーパズル”が披露された.ダム基礎カードは,表面はダムの基礎掘削面の地質図を図柄とし,裏面はDAM-GEO-DATAとして地質情報が記載されたマニア垂涎のレアカードである.ダム基礎パズルはA3サイズ,315ピースで両面のパズルであり,子供が地学に興味を持つ切っ掛けになるかもしれない.なお,これらのコンテンツの配布については,ダム基礎カードについてはシリーズ化が考えられるものの,ジグソーパズルについては予算的な課題があり,下敷きにして配布するなどを考えているとのことだ.市民へのアウトリーチ活動としては学会単体での活動には限界があり,他の業界や事業者,ダムマニア,鉄道マニア等とのコラボレーションが提案された.

「H26広島豪雨災害に係る支部アウトリーチ活動」

日本応用地質学会 中国四国支部 曽我部 淳(中電技術コンサルタント株式会社)

本講演では,平成26年度広島豪雨災害への中四国支部の継続的な取り組みが紹介された.中四国支部では豪雨災害の10日後に調査団を結成し,半年後に市民向けの報告会を開催している.報告会では速報性よりも防災・減災に役立つ教育を主眼とした報告がなされ,長谷川前会長から「土砂災害とつきあい方10箇条」が提唱されている.この講演会はマスコミにも取り上げられ,また地元の高校教師からの要請を受けて中高生を対象とした第1回出前講座(現地見学会)の開催に発展している.平成28年には,前回の反省点を踏まえ第2回の出前講座が開催されている.また出前講座から派生し,郷土の蛇王池伝説をモチーフとした防災絵本「にげて」が地元の中高生により作成された.この防災絵本は今月(6月)出版され,中高生による読み聞かせが行なわれる予定との事である.この様な活動の連鎖には,学会と学校のパイプ役になった高校教師のキーマンとしての存在が大きく,また支部のニーズ対応型の行動が成功の秘訣であったと分析している.本活動は,支部のアウトリーチ活動の実証例ともいえ,今後の学会のアウトリーチ活動の参考となるであろう.

パネルディスカッション

 長谷川先生をコーディネータ,シンポジウム発表者6名をパネリストとして,会場参加型のディスカッションが展開された.まずは,各支部のアウトリーチ活動についてその内容,対象,現状や課題等が報告され,情報共有と現状の認識がなされた.また,非会員にもかかわらず参加して頂けた千葉科学大学の植木先生やお茶の水女子大学の長谷川先生よりアウトリーチ活動についての貴重なご意見を伺うことができ,脇坂会長からは今後の活動における「継続,蓄積,継承」の重要性が示唆された.最後に長谷川コーデイネータより応用地質分野における今後のアウトリーチ活動として,他機関との相互協力と支援とをより深度化するとのメッセージで締めくくられた.
 今回はこれまでにない内容のシンポジウムであったが,活発な議論を交えた有意義なパネルディスカッションとなり,シンポジウムの新たな方向性を示したものであったことを最後に報告したい.

(文責:事業企画委員会 上野,田中,橋本(智),宮原)