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平成25年度 定時社員総会およびシンポジウム

日時

平成25年6月21日(金)
11:00〜12:00 定時社員総会
13:00〜18:00 特別講演・シンポジウム
※シンポジウム後に意見交換会を開催いたします(会費5,000円を予定)

会場

柏キャンパスまでのアクセス

東京大学柏キャンパス 新領域環境棟FSホール
千葉県柏市柏の葉5-1-5
柏キャンパスへのアクセス(東京大学ホームページ)
つくばエクスプレス柏の葉キャンパス駅から東武バス(西柏04または西柏03)東大前または東大西停留所下車
※会場には駐車場がありませんので,公共交通期間をご利用ください

資料集代

一般会員3,000円,学生会員1,500円

CPDH

5時間(シンポジウムを聴講の場合)

定時社員総会

総会の構成員は役員および代議員ですが,当学会員であれば総会を傍聴することができます

シンポジウム

テーマ:「東日本大震災後の応用地質学 -新たな課題としての廃棄物処理と放射能汚染-」

主催

一般社団法人日本応用地質学会

プログラム

1.シンポジウム開催の主旨

自然災害に伴う環境への影響は小さくない.特に,大災害が発生した場合の人の被災や,生活基盤の破壊など社会環境に与える影響は甚大となる.これらの影響をまとめるとともに様々な課題を事前に整理しておくことは重要である.2011.3.11に起こった東日本大震災の記憶はいまだ忘れることができない.特に,原子力施設からの放射能汚染や災害に伴う膨大な廃棄物の処理については大きな課題を残すことになった.

応用地質学会においてもこれらの課題についてその現状と今後のあり方について論議することは,たいへん有意義であり,様々な分野の研究者や実務者が集まってその新しい方向性を見つけるとともに,今後,西日本や首都圏での発生が予想される大地震への準備にしたい.

2.プログラム

特別講演
13:00-14:00 災害に伴う廃棄物の処理
遠藤和人(独立行政法人 国立環境研究所)
14:00-15:00 森林の放射能汚染と除染にむけた課題
高橋正通(独立行政法人 森林総合研究所)
15:00-15:10 休憩
15:10-16:10 長崎における原爆由来の放射性核種の環境中での分布とその挙動
馬原保典(京都大学名誉教授)
16:10-16:20 休憩
話題提供
16:20-16:40 1.環境地質学としての取り組み
環境地質研究副部会長 竹村貴人(日本大学)
16:40-17:00 2.廃棄物処分における地質環境調査・解析手法
廃棄物処分委員会委員長 登坂博行(東京大学)
17:00-17:20 3.空から見た放射線分布と今後の展望
眞田幸尚・鳥居建男(独立行政法人 日本原子力研究開発機構)
総合討論
17:20-18:00 司会:環境地質研究部会長 稲垣秀輝(株式会社 環境地質)

実施報告

実施概要

環境地質研究部会をはじめ各研究部門のご協力の元にシンポジウムを開催いたしました.多数のご参加をいただきありがとうございます.各講演の概要は以下のとおりです.詳細は特別講演およびシンポジウム予稿集としてまとめられています.是非ご一読いただけたら幸いです.予稿集の購入に際しては学会事務局までお問い合わせ下さい.

特別講演

1 災害に伴う廃棄物の処理

遠藤和人(独立行政法人 国立環境研究所)

東日本大震災では,2,600万トンにも達する廃棄物処理が必要となっている.この内,過去の震災にはない津波堆積物の存在が特徴的で,全体の4割にも及ぶ1,000万トンが存在する.しかし,津波堆積物は,他の災害廃棄物と混合して発生源と異なる場所に広範囲に分散しており,集積にかかる時間と労力が甚大となっている.講演者は,長期間現地に赴き自治体と共同で災害廃棄物処理のマスタープランを策定されてきたが,廃棄物を有効利用することで効率化を図ってきた.災害廃棄物では,概ね半分の49%は有効利用されているものの,津波堆積物では31%に留まっている.これは,津波堆積物が汚泥など細粒分を多く含むため埋戻しや盛土といった土質材料に適さないことが原因である.宮城県では津波堆積物を水洗浄し,細粒分を除去することで有効利用をはかっており,有効な手段とみている.また、汚染度の極めて低い津波堆積物は,残地することも可能である.ただし,液状化や有機物の混入による水質悪化や長期的な沈下などの課題があげられている.

2.森林の放射能汚染と除染にむけた課題

高橋正通(独立行政法人 森林総合研究所)

東京電力福島第1原子力発電所の爆発により大量の放射性物質が放出され,東日本の森林は広範囲に汚染された.除染作業は予定通り進んでおらず,森林にはほとんど手つかずの状態である.講演者が従事された森林総研の調査である,福島県内3地域(浜通り,中通り,会津地方)の国有林を対象とした森林内の放射性セシウムの動態や影響調査を行った事例をもとに,森林内の放射性セシウム沈着量・森林の放射能汚染とその実態・森林における放射性セシウムの除染についてご講演をいただいた。森林全体の除染については,調査結果からは,森林を適切に管理する限り,放射性セシウムは森林内に留まると考えられ,また,渓流水の観測結果からも森林にたまった放射能は簡単には流出しないようであった.
 除染については,除染作業に伴う再拡散リスクや生態系の大規模な撹乱,公益的機能の低下の可能性等は住民には心配な問題であり,被災者の間でも簡単な合意形成は難しく,課題が残されているらしい.

3.長崎における原爆由来の放射性核種の環境中での分布とその挙動

馬原保典(京都大学名誉教授)

本講演では,馬原先生が1981年から10年ほどかけて研究された長崎の原爆からの放射性核種の分布や環境中での移行状況の研究を基礎として,東日本大震災による福島第一原発事故による放射性核種の分布や今後の核種移行について説明された.
 長崎の原爆では,プルトニウム,セシウム,ストロンチウムなど東日本大震災で拡散した放射性核種と同様の放射能が発生し,長崎市の北東側に位置する西山地区を中心に「黒い雨」として降り注いだ.
 土壌中の原爆フォールアウト核種の分布は,40年以上たった状況でも,地表から30cmの範囲に吸着されていて,特にセシウムは土壌中の移行が非常に遅いことが指摘された.なお,土壌中の核種の移行速度はセシウム:1mm/年,ストロンチウム:4.1mm/年,プルトニウム1.25mm/年と計算された.また,西山貯水池の湖底コアの分析結果から,大雨災害による土壌流出により,放射性核種が移動していることが示された.
 この長崎での研究は,福島の除染や今後の対応に非常に重要な示唆を多く含んでいると考えられる.

話題提供

1.環境地質学としての取り組み

竹村貴人(日本大学)

環境地質学とは「人」と関わる地質学であり地質学をツールとして人に関するあらゆる問題を解決する学問である.現在研究部会として取り組んでいるテーマとしては以下の3つがある.先ず,堆積物調査では精密な堆積構造を観察する重要性がある.そのツールとしてジオスライサーの有用性と,更にゴミも製造年代によって僅かに形態がことなるものがあり,それが堆積年代測定のツールとなる「ゴミ年代学」について紹介した.次に航空写真等によるリモートセンシングの重要性,第3に地下の廃棄物(固相,液相,気相全て)が発する熱汚染を紹介した.特に熱汚染は,地下の細菌・バクテリアの異常発生や地中の金属工作物の早期腐食を及ぼすことから,今後も熱分布・熱伝導について地下水流動を含めて研究を進めていきたい.

2.廃棄物処分における地質環境調査・解析手法

登坂博行(東京大学)

廃棄物処分の要所は,「廃棄物になる前に如何に対応処理できるか」にかかっており,その最上流側での有効なツールを研究している.廃棄物としては,わかりやすい固相のものだけでなく,意図せず流れ出る液相,気相のものも対象にすべきであるが,一般にはその重要性をあまり認識されていない.
 廃棄物量では,一般廃棄物は身近でとても多いと感じるが,産業廃棄物はそれより一桁も違う大量であることを紹介した.また液相としての下水や発電所の温排水,気相としての二酸化炭素も廃棄物として含まれることを述べた.
 最後に,廃棄物処分で一番重要な点は,処分においては水圏・地圏を変化させることは今後も避けられないことを踏まえて受け入れ可能な最適化の方法について取り組み,その成果が地元の正しい理解として得られることであり,そのことを見据えて研究を進めて行きたい.

3.空から見た放射線分布と今後の展望

眞田幸尚(独立行政法人 日本原子力研究開発機構)

航空機(有人ヘリコプター)や無人ヘリコプターによる上空からの遠隔放射線モニタリングは,環境中に拡散した放射性物質の分布範囲を面的に把握する技術として極めて有用である.
 日本原子力研究開発機構では,2011年3月に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故直後から,有人ヘリコプターによる航空機モニタリングと無人ヘリモニタリングを何度か実施してきた.結果は,放射性セシウムの沈着量や地表面から1mの高さの空間線量率が分布マップとして視覚的に表現される.
 今後は,測定解析手法の標準化や簡便化などにより,これらの技術の利用拡大が望まれる.一方で,緊急時遠隔モニタリング用の無人航空機および森林・住環境モニタリング用の小型無人ヘリの開発と実務への適用を研究すべき課題として取り組んでいる.

総合討論

司会:稲垣秀輝(日本応用地質学会 環境地質研究部会長)

総合討論では,特別講演1〜3と話題提供1〜3で示された課題や提言を踏まえ,環境地質研究部会,地下水研究部会,廃棄物研究小委員会,応用地形学研究部会,土木地質研究部会,災害地質研究部会,東北支部からそれぞれの分野における課題と提言がまず報告された.そのうえで,本シンポジウムのテーマ全体に関する活発な討論が行なわれた.討論の前半は主として災害廃棄物,後半は主として放射性廃棄物をテーマとした.
前半では,各分野の課題に関して,災害発生直後に緊急的に対応しなければならない事項と,発生後10年単位の中長期的な課題とに分けて検討してはどうかとの提案などが出された.
 後半では,高橋氏の特別講演2で示された放射性セシウムの樹木から土壌への移動現象および馬原氏の特別講演3で示されたフォールアウト核種が長期間地表付近に留まるとの結論に関心が寄せられた.これを踏まえ,地表付近に蓄積された放射性物質が,基盤の種類や風化の程度などに応じてどのような挙動を示すかは重要な応用地質学的課題であるとの認識が示された.
 最後に,このシンポジウムがスタートラインとなり,部会ごとの多様な視点と部会間の活発な意見交換により,災害廃棄物や放射能汚染対策に関して応用地質学的な課題解決が進展することに対する期待が千木良会長より表明された.

(文責:事業企画委員会 緒方,田中,長谷川(貴),原田,松浦,宮原)