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令和3年度定時社員総会およびシンポジウム

令和3年度定時社員総会およびシンポジウムを下記の要領で開催いたします.奮ってご参加くださいますようお願いいたします. 新型コロナの影響が続いていることが予測されるため,WEB開催を基本といたします.

日時

令和3年6月18日(金)
10:30〜11:30 定時社員総会
13:00〜17:00 シンポジウム

定時社員総会

総会の構成員は役員および代議員ですが,当学会員であれば総会を傍聴することができます

シンポジウム

テーマ:「応用地形学の新たな展開―ハザードマップの示すべきもの―」

シンポジウム参加費(予稿集代を含む)

正会員3,000円,学生会員2,000円(予定)

CPDH

3.5時間(シンポジウムを聴講の場合)

プログラム

1.シンポジウム開催の趣旨

日本応用地質学会応用地形学研究部会では,頻発する自然災害に対しては,学会調査団の構成員として精度の高い航測写真や衛星画像といった初期段階の情報提供を行ってきた.また,現場情報を解析して,地形災害に対して二次被害の発生を防ぐより精度の高い情報を提供したり,広域的な地形の視点から被災状況の全体像の早期把握に貢献してきた.また,地形を社会の豊かな資源としてとらえることを目標に掲げ,各種の地形表現を通じて歴史的な遺構や古道などの抽出,災害に対する立地条件や時代変遷について検討する活動も続けてきた.本シンポジウムは,それらの経験を生かして,近年頻発する自然災害に役立つ応用地形学の新しい展開について議論してみたい.地形地質情報をいかに的確に表現して,わかりやすく伝えるかということは応用地形学の重要な役割であると考えている.(ハザードマップにどのような情報を盛り込んでつたえたらよいか).日頃研鑽している応用地形学・災害地質に関する研究成果を会員ひいては社会に還元することを目的とする.

2.プログラム

シンポジウム「応用地形学の新たな展開―ハザードマップの示すべきもの―」
13:00〜13:05 開会の挨拶:応用地形学研究部会前部会長 中曽根 茂樹
 第1部 特別講演
13:05〜14:05 特別講演「首都大水害とハザードマップの新たな活用」
  土屋信行(公益財団法人リバーフロント研究所)
14:05〜14:15 質疑
 第2部 話題提供
14:20〜14:50 「地形表現技術の活用例―地形災害をさけた山間部の古道立地―」
   足立勝治(プライムプラン)
  「衛星による微小な地表変状の抽出―ハザードマップにどのように生かすか―」
   小俣雅志(パスコ)
14:50〜15:00 休憩
15:00〜16:00 「地形判読技術の継承―ハザードマップ作成の観点から―」
   小林 浩(パスコ)
  「地形資源と土地利用の状況 ―価値と所有権の観点から―」
   本間 勝(アサノ大成基礎エンジニアリング)
  「被災経験から学ぶ今後の防災・減災対策の在り方」
   野々村敦子(香川大学)
  「ハザードマップに生かす地形表現技術と応用地形学図」
   向山 栄(国際航業)
 第3部 パネルディスカッション
16:20〜16:55 テーマ「ハザードマップに示すべきもの」
座長:小野田 敏(アジア航測) パネリスト:特別講演者・話題提供者
16:55〜17:00 閉会の挨拶:応用地形学研究部会部会長 小俣 雅志

実施報告

実施概要

令和3年シンポジウムを開催いたしました.当日は192名のご参加をいただきありがとうございます.各講演の概要は以下のとおりです.詳細は特別講演およびシンポジウム予稿集としてまとめられています.是非ご一読いただけたら幸いです.予稿集の購入に際しては学会事務局までお問い合わせ下さい.

第1部 特別講演

「首都大水害とハザードマップの新たな活用」

土屋信行(リバーフロント研究所)

特別講演は,長年東京都職員として河川事業等に従事され,現在リバーフロント研究所技術参与の土屋信行氏にご講演いただいた.
本講演では,はじめに2019年台風19号による水害が紹介された.台風19号による線状降水帯は広範囲に豪雨をもたらし,各地で特別警報が出され堤防が決壊した.現在,水防団は減少し,土嚢で防げたかもしれない決壊も対策に手が回らなかったようである.また避難指示が真夜中に出ており情報が行き渡ったかも疑わしいとのことである.想定を超える雨により,計画水位を上回ったことは致し方ないとしても,どう備えるかが課題として示された.
 流域治水としては,利根川と荒川の例が示された.利根川上流では試験湛水開始直後でほぼ空の状態であった八ッ場ダムが1日でほぼ満水状態になったこと,中流では渡良瀬遊水池などが機能し氾濫を免れたことが紹介された.荒川支川では何か所か破堤したものの,荒川放水路の岩淵水門を閉め墨田川への通水を遮断した.水門を閉めなければ堤防を27cm超過し都内が水没していたとのことである.
 東京都の事例は考えさせられるものであった.江東5区には広域避難計画があったが,計画は公共交通機関が動いていることを前提に作られていた.しかし,鉄道各社が先に計画運休を発表したため,広域避難を断念したとのことである.
 ハザードマップが機能したかについて,長野新幹線車両基地の事例が紹介された.ここでは新幹線の車両が水没してしまったが,基地はハザードマップにも浸水域と示されている一番低いエリアにあった.令和2年7月豪雨による球磨川の氾濫および2016年岩泉での老人施設の被災と,2015年台風18号で茨城県常総市(水海道)が洪水で海のようになり市役所などの防災本部が水没したことも,ハザードマップを活かせなかった例として紹介された.「洪水は自然現象!水害は社会現象!」は,本講演のキーワードの一つであった.なお常総市ではどこが決壊するか分からないので避難指示を出さなかったとのことである.防災の素人が防災体制を支えており,専門性のない指揮官の意思決定を誰がサポートするのかが教訓とのことである.
また,病院は防災機関であることを意識してほしいことが強調された.東京都は高潮で70,000床あまりに浸水の可能性があるとのことである.「水害は私たちの生きざまの結果」として,実際にハザードマップを活用し盛土をすることで被害をゼロにした病院の事例も紹介された.
 最後に,自治体にはハザードマップがありながら浸水想定域内の人口が増えている現状が紹介され,ハザードマップ上の浸水高さの情報を活用し,浸水高さを仮想地盤面とすることが提案された.
質疑応答では,東京への集中投資の是非について質問があり,計画的なスマートシティー,コンパクトシティー化の必要性が述べられ,危険地域を居住地にせず郊外を豊かな住環境にする考えが紹介された.また,広域避難計画が破綻したことから,本当に避難が必要な人の避難をシミュレーションしていることが紹介された.

第2部 話題提供

講演1「地形表現技術の活用−地形災害をさけた山間部の古道立地−」

足立勝治(株式会社プライムプラン)

 本講演では,山間部を通過する古道について,その立地に関する応用地形学的な考察を行い古道の今日的意義を明らかにし古道研究に一石を投じようとし,応用地形学研究部会で取り組んでいる内容について報告がなされた.航空レーザー測量データを利用・解析した赤色立体地図を基に,読図事例を交え古道ルートの地形的分析・地形災害リスク分析を行い,その結果を整理して峠越えの古道の今日的意義についての報告がなされた.今後は事例を増やし,社会基盤施設の維持や地域の将来像に資する応用地質学的情報に発展させていく必要があることを強調された.

講演2「衛星による微小な地形変状の抽出−ハザードマップにどのように生かすか−」

小俣雅志(株式会社パスコ)

本講演では,SAR衛星のデータによる干渉SAR解析が,広域の地盤変動だけでなく地表の微小な変位を捉えることができることに着目し,北海道胆振東部地震と大阪北部の地震で干渉SAR解析によって捉えられた住宅地の地表変状と被害状況の報告と,これからの宅地盛土における地震時の災害予測と衛星データによるハザードマップについての考察,衛星観測データの今後の活用性について提言がなされた.
 干渉SAR解析図では直接的な地盤変動被害予測のハザードマップを作成することは難しいが,地盤変動が繰り返すことを利用して活動崩落の危険性が高い地域を抽出した“ハザードマップ”を作成できる可能性を示した.最後に衛星データとそこから導かれる地形地質的解釈をさらに深めていく必要があることを強調された.

講演3「地形判読技術の継承―ハザードマップ作成の観点から−」

小林 浩(株式会社パスコ)

本講演では,地形の形成過程を推論し現在作用している営力を理解するために重要な,地形判読の技術を継承する試みについて説明された.
 地形判読技術とその情報の利用については,洪水氾濫や地盤の液状化,斜面災害と沖積錐の分布の事例から,地形判読図と洪水浸水想定区分図や実際の液状化被害と比較しながらその重要性が示された.
 次に地形判読技術の継承については,地形技術者の資格として制定された「応用地形判読士」の現状と課題について指摘され,地形技術者の高齢化や後継者不足の問題が挙げられた.その解決策の一端として,近年体系化が進みつつある地形判読技術をもとに,学会で取り組まれている若手技術者を対象とした,実習を重視した地形技術者の教育プログラムについて説明が行われ,効果が上がっていることが報告された.一方で,近年の航空レーザー測量データなど数値地形図を活用した地形判読技術の体系化や,一般市民を対象とした地形観察講習会の実施などが重要な課題として指摘された.

講演4「地形資源と土地利用の状況−価値と所有権の観点から−」

本間 勝(株式会社アサノ大成基礎エンジニアリング)

本講演では,日本における現状の土地取引の課題として,「住居の安全」という視点の欠如について問題提起され,茂原市の2019年台風19号等災害の事例を挙げて,これまでの水防法の制度改正の流れと災害状況と新旧の洪水浸水想定図との比較を示された.
 次に,土地の価値と地価の関係について,価格形成要因とハザードマップの利用可能性について示された.土地の価格については,「土地の価格は不動産鑑定士が決める」という誤解について指摘され,不動産鑑定士の業務は「・・・不動産の客観的価値に作用する諸要因に関して調査若しくは分析を行い・・・」であり,不動産鑑定士が主観的に決めるものではないということが強調された,そこで,ハザードマップによる安全性の評価は不動産の客観的価値に作用する諸要因を安価に調査するためのツールとして利用価値があることが示された.
 最後に,土地所有権と土地利用の課題として,急傾斜地崩壊災害防止法と土地所有者調査の事例から,所有者不明の土地が傾斜地や急傾斜地,山林,墓地等となっていて,土地の利用価値の低い場所が相続,登記等で放置され,斜面地防災管理上の課題になっていることが示された.

講演5「被災経験から学ぶ今後の防災・減災対策の在り方」

野々村敦子(香川大学)

本講演では,2017年九州北部豪雨および2019年台風19号の被災地での調査データをもとに,災害時の状況把握と行動分析を通して,被害を最小限に抑えるための避難行動,その避難行動を実現するために必要なことに関して提言がなされた.その中で,専門家などによるアウトリーチ活動によって,地域住民への地形の見方の理解度を高めることにより,地域住民自らが,地域の災害特性を理解し,普段と違う状況に対して「気づき」を持てることが重要であることが強調された.地域住民の地域特性の理解度には個人差があることが確認されたことから,「避難の呼びかけ」を行う大切さに加えて,「避難に応じる」ことの大切さをいかに啓蒙していくかも重要な課題であることが強調された.

講演6「ハザードマップに生かす地形表現技術と応用地形学図」

向山 栄(国際航業株式会社)

本講演では,これまでのハザードマップ作成の歴史的経緯,ハザードマップの系譜,そして現状のハザードマップに不足している情報,今後の活用方法について解説がなされた.その中で,ハザードマップの作成は,2000年頃を転機としてハードによる災害対策の限界が認識され,ソフト面の対策の重要さが認識されるようになってきたことと関連が深いことが紹介された.また,地形分類図はいまだに全国で網羅されていないが,最近の地形学的特徴をビジュアルに表現できる各種の地形情報を活用することで,分かりやすい地形表現が得られるようになってきていることが紹介された.
 ハザードマップの作成は広く浸透しつつあるが,ハザードマップを配るだけでなく,防災上有益な情報として,地域特性の理解が得られるようなビジュアルな地形表現をハザードマップに付与していくこと,教育や地域活動の色々な場面に活用を広げていくことが応用地質技術者の取組むべき課題の一つであるとの提言がなされた.

パネルディスカッション:テーマ「ハザードマップに示すべきもの」

座長:小野田 敏(アジア航測株式会社)

 パネルディスカッションは,特別講演者の土屋氏,話題提供者の足立会員,小俣部会長,小林会員,本間会員,野々村会員,向山会員,ゲストとして前部会長の中曽根会員をパネリストとして迎えて実施した(土屋氏と野々村会員はリモートによる参加).ディスカッションでは今後のハザードマップの作成と活用に関する課題について,さまざまな観点から数多くの意見が出された.
 最後に,座長の小野田会員が「災害に対して学会ができることはたくさんあるはず.地域の安全・防災のため,地形の成り立ちを含めて災害の危険性について語り継いでいく必要があるが,ベテラン世代の方が多くなっているので,若い世代に対してきちんと継承していきたい.」と締めくくった.

(発言要旨)
・ハザードマップでは災害をどのようにイメージさせるかがポイント.赤色立体地図と航空写真により説得力を増すことができる.これにより,避難場所設置の検討もうまくできるのではないかと考える.
・SARの活用は,災害を小さなうちに見つけ出して対処することを目的としている.大きな災害になる前に対処できる新しい技術である.
・スマートフォンの普及により,ハザードマップ上での自分の位置はすぐわかるようになったが,ベースとなる地図は地形の把握に向いていないものが多い.一般の方でも理解できる地形表現を工夫することが大事.
・ハザードマップに立体的な表現があると良い.着色だけでなく,立体的に把握できれば理解度が全然違ってくる.
・自分の住んでいる場所の地形に対して,関心がある人もない人もいる.関心がない人については段階的に情報を伝えることが必要.
・災害への意識が高い人でも,大規模な災害は経験していないことが多い.日々の経験だけではわからないこともある.災害の起こりやすい地形は地図だけではなく,現地を見て地図とリンクさせながら理解させるのが良い.
・不動産取引においてハザードマップの情報はネガティブなものというイメージであったが,宅建業法の改正により,不動産取引の際はハザードマップの説明が義務化された.当初は賛否両論だったが,ほとんどの不動産屋は誠実に説明を行うようになり,顧客と一緒に対策を考えるなど,流れが変わってきている.リスクを受容できるかがキーポイントである.
・あるメディアで「キュウカドウ(旧河道)って何?」という見出しの記事があったのを見た.地形の専門用語は一般の方にはなじみが薄いので,専門家が説明するときは一般の方にもわかるような表現にする必要がある.
・災害は地域の発展の帰結とも言える.地形の成り立ちを含めた物語として伝承していく必要がある.
・最近はブラタモリやスリバチ学会等で,地形の説明をうまく話せる語り部が登場している.このような分野において,応用地形技術者が寄与できることはたくさんあるだろう.

(文責:事業企画委員会 田中姿郎,原田政寿,宮原智哉,淡路動太,赤澤正彦,石濱茂崇)