10.23 新潟県中越地震災害緊急現地調査の概要報告

日本応用地質学会・(社)日本地すべり学会合同調査団


調査概要

10月28−29日に新潟市で開催された平成16年度日本応用地質学会研究発表会の終了後の30日に, 急遽,上記の合同調査団を結成し,新潟大学の協力を得て第一次としての災害調査を二班に分かれて実施した.

参加者の構成は以下のとおり.

1班:井上大栄(日本応用地質学会会長)
山岸宏光((社)日本地すべり学会会長,日本応用地質学会北陸支部長,新潟大学)
渡部直喜(日本応用地質学会北陸支部幹事長,新潟大学)
千木良雅弘(京都大学防災研究所)
井口 隆(独立行政法人防災科学技術研究所)
ほかに京都大学・新潟大学の学生5名
2班:野崎保(応用地質学会北陸支部副支部長)
横山俊治(高知大学)
西山賢一(徳島大学)
岩崎好規(財団法人地域環境研究所)
永田秀尚(有限会社風水土)
中谷登代治(株式会社便利屋きいすとん)
ほか5名

調査を実施した地区と対象は以下のとおりです.

1班
1)越路町朝日の朝日酒造付近と朝日寺の墓石倒壊状況
2)長岡市片田の新幹線脱線現場
3)長岡市濁沢町周辺の地震による崩壊
4)小千谷市岩野周辺の道路の陥没,水田の液状化・噴砂
5)信濃川左岸から小千谷市浦柄の岩盤崩壊の遠望
6)小千谷市内の家屋や墓石の倒壊,液状化による電柱の傾動, 道路陥没,マンホールの抜けあがり
7)三島町逆谷周辺の7.13豪雨による斜面災害
2班
1)小千谷市浦柄の岩盤崩壊4
2)JRのトンネル付近の流れ盤すべり
3)さらに上流側の県道とその下の川を閉塞した岩盤地すべり
4)川口町の飯山線橋脚の被害など

調査結果概要

10月28−29日に,新潟市にて,日本応用地質学会(井上大栄会長)の平成16年度研究発表会が 同北陸支部(山岸宏光支部長,(社)日本地すべり学会会長)を主体的に実施した. 30日には大川津分水などの見学会を予定していたが,23日に発生した新潟県中越地震のために 中止せざるを得なかった.そこで急遽,大会場での緊急セッションとともに, 現地調査を日本応用地質学会と(社)日本地すべり学会と合同で行なった.急なことでもあり, 十分な議論はできなかったのですが, 以下に, 調査団員から寄せられたいくつかの箇所のコメントを 挙げておきます.

1)   長岡市濁沢の表層崩壊: 典型的な急崖の遷急点からの表層崩壊(図2)で,乾燥した粗い崩壊堆積物が見える.
2)   小千谷市浦柄の岩盤崩壊およびその南に見られる崩壊 (図3図8図9): 典型的な流れ盤すべりで,移動層は新第三紀鮮新世白岩層(灰爪層相当層)の塊状砂質シルト岩である.移動層は大半が新鮮な岩塊であり,インタクトな岩盤が初生的に崩壊した可能性が大きい.
3)   小千谷市岩野の水田の噴砂:真ん中に粒度の粗いものがあり,その周辺に細かいシルトが広がっている(図4).このほかに,中礫を噴出したり,穴があいているものが見られた.
4)   小千谷市岩野付近の農道にできたノンテクとニック断層(図5):左の写真は現地で観察された落差数10cmの断層で,北東にアスファルト道路から水田に連続している.これを右側のアジア航測(株)の空中写真を見ると,現在の水田の畔とは斜交する古い畔に沿って液状化が発生したことがわかるが,現地で確認される断層は,これに相当する.
5)   川口町飯山線の鉄橋橋脚(図6):震源に近いせいか家屋の被害程度が最も大きい地域で,変形した家屋は例外なくNW〜WNW方向に傾いている.鉄橋橋脚上部がすべて同方向に移動していて, 地盤の方がSE方向に移動したかもしれない.

現場で撮影した写真

図 1 いまだ脱線したままの上越新幹線の車両

図 2 長岡市濁沢の凝灰質砂岩などの表層崩壊

図 3 信濃川左岸から見た小千谷柄の塊状砂質シルト岩の岩盤崩落

図 4 小千谷市岩野付近の水田の液状化による噴砂

図 5 小千谷市岩野付近の農道にできたノンテクとニック断層,圃場整備前の水田の畦に沿ってできた段差と噴砂

図 6 小千谷両新田付近で見られた全壊家屋

図 7 小千谷市内の傾いた電柱,道路陥没,マンホールの抜け上がり

図 8 信濃川右岸から見た小千谷市浦柄の塊状砂質シルト岩の岩盤崩落と同質の岩盤層すべり

図 9 信濃川右岸の小千谷市浦柄付近の岩盤崩壊・岩盤すべりと地質図(柳沢幸夫ほか,1986, 地質調査総合センター5万分の1地質図「小千谷」)

図 10 川口町の飯山線橋脚のズレ



最後に,両会長のコメントを掲載することでまとめに代えます.

井上大栄 日本応用地質学会会長のコメント

「今回の地震は大きく分けると平地の災害と山地の災害に分けられる.平地の災害では河川により形成された段丘や丘陵地上に住居,耕作地などの人間の生活拠点が密集しており,そこで発生した災害にそれぞれの特徴が見られている.特に地震後の生活については人間生活に不可欠のライフラインの復旧が急務となるが,それらを築造した際の人工地盤における液状化や沈下などの災害も認められている.自然地盤と人工地盤における災害の差異などについて,地震直後に記載して,将来の災害に備えることは我々が役割を担っているものと考えられる.また,山地災害については,特に応用地質学が得意としている基礎を構成している地質の特性(地質構造,物理的性質など)を考慮した上で災害との対応を検討していくことが重要な観点になると思われる.

 また,今回の地震の様に,内陸地殻内で発生する活断層に起因する地震は,サブダクションによって発生する地震と比較すると,活動の間隔が長いことから防災に対して,油断し勝ちであるが,今回の様に突然襲って来るので,長期的には活断層研究をさらに重点化していく必要があるだろう.当面実施する課題としては,今回の地震は震源域の近辺に既往の活断層図によって活断層が図示されているため,この活断層と余震の分布,GPS, SARなどによる地表変位との関係,反射法地震探査などによる地下地質の調査により,この地震のメカニズムを解明し,それらと被害の関係を明らかにして行くことが必要となるであろう.」

山岸宏光(社)日本地すべり学会会長のコメント

「10.23新潟県中越地震は, 内陸直下型の活断層運動を原因とする. 震源地はまさに活褶曲帯の魚沼丘陵で発生したもので, 地質学的には東西圧縮に起因する褶曲運動による背斜構造に沿って多数の地すべりができ, その恩恵として中山間地に棚田が広がった美しい景観を作ってきた. 同じ応力状態にあって, じわじわと進行する褶曲運動でなく, 一揆に断層破壊運動が起こってしまったのである.

 また, 1600箇所という多数の崩壊・地すべりについては,空中写真や衛星画像情報を見る限り, 急斜面の遷急線から発生する崩壊(表層,深層), 斜面中腹部からの地すべり,岩盤崩落(崩壊)・岩盤すべり, 古い地すべりの再滑動など,種々のものがあるようである. (社)日本地すべり学会としては, なぜこのように多様かつ多数の崩壊・地すべりが発生したのか? 過去の地すべりとの関係は?直下の強震動と崩壊・地すべり発生はどう関係するか?類似した地形地質条件で発生した7.13豪雨による崩壊・地すべりと, 今回の地震によるものとの相違,とくに水の関わり方はどう異なるのか? 地震でもすべて同じ発生メカニズムなのか? 異なるのか? ランドスライドダムの問題, 中長期的なソフトとハードの対策はどうすべきか, 等等, 課題は山積みである.今後, 応用地質学会など他学協会とも協力して検討する必要があるでしょう」