【結果報告】 令和5年度(2023)応用地質学講座 根尾谷断層巡検

令和5年の応用地質学講座は,「根尾谷断層巡検」を開催しました.
この場をお借りしまして,参加していただいた方々,講師として一日中解説をしてくださった岐阜大学の大谷教授(中部支部支部長)に感謝申し上げます.

さて,当日はあいにくの雨でしたが,以下のスケジュールで実施することができました.

    9:00 岐阜駅前集合・出発(中型バスにて移動)
stop1 10:00 梅原(うめはら)断層と断層角盆地
stop2 10:40 断層変位地形(横ずれ谷と断層角盆地)
stop3 11:10 濃尾地震に伴う横ずれ変位とリニアメント
stop4 11:45 濃尾地震に伴う横ずれ変位と自然地形の累積変位
    12:40 うすずみ公園で昼食
stop5 14:00 濃尾地震に伴う縦ずれ変位と地震断層観察館
stop7 15:20 根尾谷断層の断層破砕帯
stop8 16:20 メランジュのチャート・砂岩境界における崩壊地
    17:20 岐阜駅到着・解散(車中より石灰鉱山を見学)

写真等で簡単に当日の様子を紹介させていただきます.

【 stop1 梅原(うめはら)断層と断層角盆地 

ここでは温見断層による地形変位と断層角盆地について説明していただきました.
下の写真で,橋の右側の道路が登り坂になっているのがお分かりでしょうか.
これが断層による高さの違いとなっています.

写真では川が流れていますが,手前側が上流側で,写真の奥が下流側となります.
ここでは,下流側が隆起(持ち上がっている)してます.
このような状況で,川から水や土砂が供給されればどうなるか?といったことを説明していただきました.

【 stop2 断層変位地形(横ずれ谷と断層角盆地) 】

本巣市の湯ノ古公園(本巣市HPより https://www.city.motosu.lg.jp/0000001779.html)を見学しました.
この公園では湧き水による池がありますが,この池の形成にも断層運動が関わっています.
ここでは,キレイな水でしか生息できない「ハリヨ」という魚が生息しており,本巣市のHPによると,ハリヨは岐阜県と佐賀県の一部にしか生息していない絶滅危惧種だそうです.

下の図の中央あたりが湯ノ古公園です.(図はGoogleMapより引用)
図の中央あたりで川が「く」の字に曲がっていますが,図中央より上では,しばらくの区間において川が直線状になってますね.

【 stop3 濃尾地震に伴う横ずれ変位とリニアメント 】

ここでは断層運動に伴う横ずれ変位を見学しました.
地面が横にずれたことがよく分かる教科書的な場所だと感じました.
図(GoogleMapより引用)の中央で道が折れ曲がっているのがお分かりでしょうか.
この曲がりは断層運動によって地面が横にずれたものです.

この横ずれは他の場所でも見られたのですが,農作業を行うためにはあぜ道が曲がっているのは不便なため,他の場所の横ずれは整備されて直線になってしまいました.
しかし,非常に貴重なものであるため市指定の天然記念物として,この場所は直線にするための整備を行わずに残されたというわけです.

近くで見るとこんな感じです.ズレが分かりやすいようにあぜ道付近に人に立っていただきました.

【 stop4 濃尾地震に伴う横ずれ変位と自然地形の累積変位 】

こちらも stop4 と同じく横ずれ断層です.
GoogleMapで見ると,図中横の白丸の中で垣根がずれているのが分かります.

近くで見るとこんな感じです.分かりやすいように地面が動いた方向を矢印にしてみました.
自分が立っている場所を基準に見たとき,向こう側(写真の奥側)が左にずれているので「左横ずれ」です.
じゃあ,「反対側に立ったら逆になるんじゃ...」と一瞬思うかもしれませんが,反対側に立って見ても同じく「左横ずれ」になります.

ここまでで午前中の見学は終わり,薄墨(うすずみ)桜で有名なうすずみ公園で昼食をとりました.

【 stop5 濃尾地震に伴う縦ずれ変位と地震断層観察館 】

さて,午前中は横ずれ変位を見てきましたが,ここ断層観察館では6mもの縦ずれ変位を観察しました.
断層観察館は,このHPのトップページに度々掲載しておりますが,根尾谷断層上に建設されたものです.
「断層を保護するために,断層の上に屋根と壁を作った」とも言えます.
下の写真からも分かるように断層観察館は道路に対して斜めに建設されています.断層面を基準に建設されたことがよく分かります.

少し違うアングルで撮影した写真を掲載します.写真の手前側と奥側が段差による高さの違いがお分かりでしょうか.この段差が,断層による縦ずれ変位です.

この断層を,観察館の中では「生」で見ることができます.↓

断層をよく観察するため地面を彫り込むことを「トレンチ」と言います.
ここではトレンチを行った場所に建物を建設して,断層を観察できるようにしてあります.

言葉で説明するより,併設されている解説図をご覧になった方が分かりやすいと思うので掲載いたします.

このほかにも様々な展示物をもとに,大谷先生から説明をいただきました.
今日は根尾谷断層系の見学なのですが,午前中は横ずれ断層ばかり見てきましたが,同じ根尾谷断層系でも午後は,いきなり6mの縦ずれを見ることになりました.
この横ずれと縦ずれの関係も分かりやすく教えていただきました.

さて,次の観察ポイントは以下の予定でしたが,露頭までの道のりが流木によって塞がれていましたので,残念ながらこのポイントはパスいたしました.
【 stop6 根尾谷断層による破砕を伴わない泥質メランジュ 】

【 stop7 15:20 根尾谷断層の断層破砕帯 】

ここでは露頭を前に大谷先生より説明いただきました.川のせせらぎにより説明が聞こえづらかったので3班に分けて説明していただきました.

最後の観察ポイントは,斜面崩壊に関するものです.

【 stop8 16:20 メランジュのチャート・砂岩境界における崩壊地 】

斜面の下から見上げるように撮影したのが下の写真です.

写真中央から右にかけて切り立った岩壁があるのですが,左側にはありません.
左側では過去の斜面崩壊が生じており,なぜここだけ崩壊したのか,それを理解するためにはどういったことに着目すれば良いのか,といった点について説明していただきました.

以上で現場での観察は終了いたしました.

当日は雨でしたので,断層観察館で記念写真を撮りました.
若手からベテランまで多くの方にご参加いただきありがとうございました.

「災害は忘れたことにやってくる」と言います.根尾谷断層についてはその痕跡を天然記念物や観察館という形で残してくださっています.それを次世代に伝え続け,次の災害に備えることは大変重要だと思います.

本講座が皆様の業務,ひいては社会の防災・減災のお役に立てば幸いです.

※断層観察館での撮影およびHP掲載は許可をいただいております.
(Y.H.)