日本応用地質学会東北支部 JSEG TOHOKU
 

 平成30年7月17日(火)
平成30年度 日本応用地質学会東北支部
第25回研究発表会 当日の様子
 平成30年7月17日(火)に一般社団法人日本応用地質学会東北支部の平成30年度 第25回研究発表会が無事終了いたしました。本年度は火曜日開催、そして午後の部については、基調講演と一般発表を【一般公開】とするなど新たな試みも取り入れました。岩手・宮城内陸地震から10年という節目で、当時のことをふり返りつつ今後への課題を考える貴重な時間となったかと思います。火曜日開催となった本年度研究発表会でしたが、例年と同程度の参加人数となりました。ご参加いただいた皆様ありがとうございました。当日の発表プログラムはこちらからどうぞ。

 せんだいメディアテーク7F スタジオシアターにてAM10:00から定刻通り開会いたしました。
当日の簡単レポート以下にまとめました。
   
受付の様子(左)、支部長による開会の挨拶(右)
1.午前の部(一般発表、若手枠)(参加者:47名)
 午前の部は、一般発表3編および若手枠4編の発表で、合計7編の発表でした。
 一般の部では、原子力発電所での活断層評価の事例紹介、北上山地南部における未区分鮮新統の分布・性状、年代についての議論、そして先日のニュースで知っている人も多いと思われる喜多方市揚津地区の地すべりの現況および範囲・変位についての検討結果の報告がありました。
 若手枠では、学生時代の研究に関すものや現役の学生の研究テーマが発表されました。内容は、白亜紀の浮遊性有孔虫層序による地質分布や年代の検討、活断層である神城断層での変位速度の推移を河成段丘面の区分により検討した研究、粘性残留磁気を利用した「津波石」の検討例、貝化石を用いた古環境復元の検討例といった多岐にわたるものでした。
 一般の部では、実務に近い発表内容で、さらに喜多方の地すべりといったホットな話題が含まれるなど日ごろの業務の参考となりました。若手枠については、より学術的な内容であり、昨今の研究事情を知ったり、基本に立ち返る良い機会ともなったのではないでしょうか。
  

  

 
 
2.基調講演 メインテーマ:『平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震』をふり返って(参加者:62名)
 基調講演は、発生から今年で10年の節目を迎えた「岩手・宮城内陸地震」をふり返って考察することをテーマに、濱崎氏(株式会社三協技術、株式会社アドバンテクノロジー)と吉見氏(産業技術総合研究所)のお二人の方にお願いいたしました。
 濱崎氏には、「地震地すべり発生メカニズムと発生分布の究明に向けて」というタイトルで、荒砥沢地すべりの発生メカニズムの考察、および崩壊斜面変動予測図の作成に関することの大きく分けて2つのテーマで講演していただきました。1つ目は荒砥沢地すべりの発生メカニズムついてでした。荒砥沢地すべりが活動した当時の目撃者の話からイメージしたすべり滑動のホーバークラフト説、その仮説を説明するために「ベイパーロック現象」に着想を得たすべり機構の仮説について述べられました。そこでは、すべり面付近で地下水が瞬間沸騰することにより発生した気体がすべり面の摩擦を低くするという想定をされました。それを検証するための机上での検討結果では、計算上は概ね説明できることを話されました。2つ目として斜面変動予測図の作成に関して、AHP(Analystic Hierarchy Prosess)による評価手法について述べられ、岩手・宮城内陸地震で地すべりと崩壊に関して検証を実施した結果が比較的良好であったことを説明されました。
 吉見氏には、「地震動と断層変位」というタイトルで、岩手・宮城内陸地震の地震断層の実地調査と最新技術による断層変位の検討結果および同地震の地震動の特徴について講演していただきました。断層変位については、当時の最新技術にから得られた地形データ(航空レーザ測量)や変位観測(InSAR、GPS観測)結果をもとに現地調査(踏査や地上LiDAR)を行うことにより、多角的・科学的に調査・解析できたことを紹介しました。後半では地震動そのものについての内容で、岩手・宮城内陸地震での地震の固有周期が建物への影響が少ない一方、崩壊に対しては厳しいものであったことなどを説明していただきました。また、KiK-net一関西観測点で得られた地震波形の例を挙げ、1つの観測事実について科学的説明が1つではないことがある例を述べられました。様々なデータが詳細に得られる現在ですが、それを科学的に解析する人間により解釈が異なることは非常に興味深いと思います。
 
3.午後の部(一般発表) (参加者:62名)
 午後の一般発表は、岩手・宮城内陸地震や地震災害に関連した3編の発表がありました。
 1つ目は、岩手・宮城内陸地震を引き起こした活断層に関して10年間の研究のレビューをまとめたもので、分散・断続的な地表地震断層の考え方(氷山の一角か、受動変位したものか)など現在の知見を述べられました。2つ目は、岩手・宮城内陸地震について斜面災害の視点で振り返る内容で、調査団で赴いた際に撮影した写真や地形図などとともに紹介し、災害履歴のアーカイブ化や分析を提案していました。3つ目は、福島県の会津の飯谷山・山崩れに関する災害伝承について文献の調査及び現地確認による検証結果について報告されました。
 10年という節目で改めて岩手・宮城内陸地震をテーマにすることにより、再考してみる良い機会となったのではないでしょうか。岩手・宮城内陸地震以降の10年には様々な災害が発生し、あわただしく駆け抜けてきました。それゆえに様々なデータが中途半端であまり整理されていないように思われます。今後、学会としてこのような災害事例データについて整理・活用できれば良いと思います。今回は基調講演と午後の部を【一般公開】としましたが、非会員の参加者は4名でした。学会活動やや応用地質学の普及などの啓発活動の一環として、事前案内などを含め今後の課題としたいと思います。
  


4.意見交換会 (参加者:25名)
 研究発表会終了後には、場所を移して意見交換会を行いました。会のはじめには、先日の応用地質学会本部社員総会で名誉会員を受賞された太田顧問から挨拶をいただきました。その後、遠田支部長の乾杯の挨拶で会が始まりました。
 意見交換会には基調講演をしていただいた両氏にも参加していただき、講演で聞き足りなかったことをお聞きしたり、内容について議論をすることができました。そのほかにも情報交換や、ほかの研究発表についての話などに華を咲かせたあっという間の2時間でした。
 最後には、「伊達の一本締め」で中締めといたしました。
 
太田支部顧問からのご挨拶(左)、遠田支部長による乾杯(右)
 

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